園児が糖尿病を発症して-ある幼稚園の記録

つぼみの会は、幼稚園、保育園の入園拒否問題についての啓蒙活動を行っています。
A君は幼稚園の時、1型糖尿病を発症しました。その時幼稚園はどのように対応したか、A君はどのような幼稚園生活を送ることができたか、このリポートは、会員の家族が幼稚園の先生にお願いして、当時の様子をまとめていただいたものです。すべての幼稚園がこのように対応してくださるのが、私たちにとっての理想です。参考になることがたくさんありますので、幼稚園からいただいた全文を掲載いたします。
入園前にお子さんが発症していた、あるいは幼稚園、保育園の時に発症したお子さんのご家族の方、ぜひ、園の対応やご自身の感想などをお聞かせいただけたら幸いです。

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A君が、小児糖尿病と診断されたのは、幼稚園に入園し、1年たってからのことでした。入園前に発症していた例とは、受け止め方は違っていたのかもしれません。当時は、小児糖尿病という言葉は知っていたものの、保育者の誰もが身近に感じてはいませんでした。小さい幼稚園なので、保育者全員で140名ほどの子ども達の育ちあいを見守っています。年齢ごとのクラスではなく、3・4・5歳児が入り混じっているため、1人1人が違うことを自然と受け入れられる環境でもあります。年中児を担当した保育者は、細かな所でも保護者と相談し、情報を交換しながらの日々でした。

年中児になった1学期、A君が時折テラスでゴロゴロとしている様子が気になっていました。7月の家庭訪問では、食事の好き嫌いが多いことや「買い物に行った時、途中ぐずって歩かず、大変だった。」という話しを保護者から伺ったことを記憶しています。2学期の始園式に、夏休み中に急に具合が悪くなり、病院で診察を受けたと保護者より突然病名の報告を受けました。驚きの中、保護者との話し合いを繰り返す中で、「糖尿病について」の冊子を見せていただき、保育者も戸惑いながら、病気についての最低限の理解をしていきました。初めの頃は、命に関わる事だった為、保育者間に緊張感があり常に「体調は大丈夫だろうか?」「A君の様子が、いつもと違うのではないだろうか・・・」等気になり、必要以上に声を掛けてしまったり、関わっていたように感じます。
園生活の中でも手さぐり状態でしたが、例えば、お誕生会にみんなで食べる、おやつの相談をしたり、体調の悪そうな時は保護者に連絡し、預かっていたビスケットなどを食べる確認をしていきました。少しずつ、クラスの仲間にも病気の事を話していき、A児も仲良しの友に「ビスケットかジュースのまないと元気でない」と伝える姿もみられるようになりました。 毎日のお弁当も工夫され、こんにゃくを加えたご飯や野菜中心のおかずでしたが、今まで嫌いで残していた野菜を「おいしい、おいしい」と笑顔で食べきるA君の姿が印象的でした。「A君、この野菜も食べられるようになったんだ、すごいね」と皆にも伝えていき、A君も嬉しそうな様子でした。
3学期は、A君の園での体調の変化があった日は、前後の活動や様子を短く記録し、こども達だけでの遠足などは、A君の保護者に付き添ってもらい、参加していました。

年長児になり、担任もクラスの友達も変わり、前年度の担任と保護者を交えての話し合いから始まりました。体調に配慮をしつつ、その事を抱えながらもA君がみんなと同じ幼稚園生活を送り、友達との関わりの中で共に成長してほしいという願いは変わりませんでした。しかし、年長児だけの活動も多くあり、すべてを同じにはできないかもしれませんが、A君の幼稚園生活が充実したものになる様にご家族の大きなご協力が必要であることを伝え、家庭と園との細かな情報交換の必要性も確認しました。
その頃には、自分で血糖値を測定する事ができた為、保護者と相談をして測定の為のキットの管理(基本的にはA君の鞄に入れていた)と、測定を行う時間の管理(お母さんと相談して保育中のいつ行うかを決めておいた。様子がいつもと違う時は,保護者に電話し相談した)、血糖値が低い時のみお母さんに電話をして預かっている補食から何を食べればいいのかを確認して食べるという事は保育者が行い、他はなるべくみんなと同じ幼稚園生活をする事を共通理解をしてのスタートでした。
年長時は2泊3日のお泊まり保育(林間保育)があります。子どもたちはみんなお母さんと離れ、保育者・友達と泊まり色々な活動をします。山登り、川遊び、泥遊び、キャンプファイヤー、そして寝食も共にします。さすがに、この活動にはお母さんの大きな協力が必要でした。そして、みんなはお母さんがいない中、A君のお母さんは食事の内容・量や、注射等もありA君だけでなく、クラスの子どもたちの前に顔を出さざるを得ないため、子どもたちに隠してお母さんが参加をするのではなく、クラスの子どもたちみんなの問題として捉えるべきだと感じました。

園内でも保育者間で話し合い、お母さんとも相談をしてクラスの年長児にA君の糖尿病の事を話す事にしました。どのように話す事が良いのか迷いましたが、元看護師をされていた方に子ども用の本を紹介して頂き、私たち保育者がまずは小児糖尿病を学び、私たち保育者の言葉で子どもたちに伝えてみる事にしました。また、ある保育者は新聞の記事で、スポーツ界にも糖尿病でも活躍している人がたくさんいる事等を知り、その事を子どもたちに語りたいという思いが沸き、自分自身が感じた事を語りました。子どもたちは、深くは理解できなかったかもしれませんが、友達の事を考える1歩となりました。

林間保育当日は、近くの宿に泊まって頂いたお母さんに、毎食ごとにA君の食べていい量を調節して頂き、注射を打ってもらいました。子どもたちもその様子を目の当たりにしてじっと見て、今まで見た事の無い注射をする姿に、少し驚いたようでした。「痛くないの?」「どうしてA君注射するの?」「毎日するの?」「私もした事ある」と、感じた事を口にしました。慣れているA君は、「ここ(太もも)なら全然痛くないもん」と言いましたが、クラスの子どもたちは、少なからず色々と感じたようでした。どの子にとっても、楽しくもあり、体力的にも大変でもある3日間でしたが、お母さんに協力していただき、A君にとっても仲間と一緒に生活し、様々な体験をした3日間になりました。

A君にとっても、ご家族にとっても突然小児糖尿病が発症した事は、私たちには計り知れない驚きと戸惑いがあった事と思います。今までの日々の生活が一転し、私たち保育者もどのように幼稚園生活を送る事がA君にとって良いのかと、大きな戸惑いと不安を感じました。
子どもたちは、時には大人が驚くような率直な思いを口にします。A君に対しても、ドキッとするような言葉を言う事もありました。しかし、その一言を「可哀そうだから、言ってはダメ」と大人の価値観で片付けるのではなく、その言葉を受けたA君の気持ち、言ってしまったみんなの気持ちに、心を留め考えていく事が必要と感じました。そして、保育者間、保護者の方々と話し合いを重ねてゆき、A君の幼稚園生活を見ている中で、大切な事は特別な事をするのではなく、仲間との中で当たり前の日々を送り、友達とのやり取りを繰り返し、色々な体験を共に重ねていく事ではないかと感じました。それには、ご家族の協力が不可欠であり、互いに信頼し合い、A君の生活を共に考えていく中での園生活であったと、感じています。

「糖尿病」患児であっても、少しの工夫や配慮があれば、仲間と同じように幼稚園生活を送ることが出来たし、特別に困った事はありませんでした。ケンカをしたり、一緒に作ったり、幼児期に同年齢の友だちと経験した一つ一つのことが、これからの歩みの糧となるよう、願っています。

葛飾こどもの園幼稚園